義兄(あに)と悪魔と私
思えば、いつからだっただろう。
私は記憶を思い起こそうとして、やめた。
目の前の比呂くんが、予想以上に真剣な顔で私を咎めるように見ていたからだ。
「そういう冗談、やめろよ」
「何ムキになってるの。大体、あなたに指図される筋合いないから」
「良子さんのことは、俺に任せて言っただろ」
「任せるなんて言ってない!」
私達はちょっとした言い合いになって、周囲から注目を浴びていた。
例の噂のせいもあるのか、ひそひそと言い合う声がやけに耳に障る。
じろじろ見られるのが嫌で、私は比呂くんを無視して歩きだした。
「円、待って」
追いかけてくる声も振り払う。
すると、しばらく歩いたところで腕を掴まれた。
「俺も一緒に帰るから」
理解不能なまでに比呂くんは必死だった。
私はただただ困惑する。