義兄(あに)と悪魔と私
「何言ってるの? 部活があるでしょ」
「いいよ。そんなの」
「はなしてよ。必死すぎ!」
私は比呂くんの手を振り払おうとしたが、彼はそれを許さなかった。
「危険なんだよ、本当に」
痛いほどに真剣な眼差しで、私を見つめる。耐えられない。
「私が心配? 今更どの口が言うの」
私が嘲るように言うと、比呂くんは傷付いたような顔で黙った。
罪悪感など感じない。この男がしたことを思えば当然のことだと、自分に言い聞かせる。
けれど、どんどん自分で自分が分からなくなっていく。
この人が欲しくて、手に入らないことを嘆いて、憎んで、愛して。
許したくなくて、私は。
「円の言うとおりだよ。でも、俺は今は本当に、君のことを守りたいって思ってる。だから、行かないで」