義兄(あに)と悪魔と私
おかしい、と思ったのは二回目に起きた時。
外はもう完全に暗くなっていたのに、家の中には自分以外の気配を感じなかった。
時刻は午後八時半。
夕食までには帰ると言っていた。
急に不安が込み上げてくる。嫌な想像ばかりが頭の中に浮かんでは消える――玄関の鍵が開く音がしたのは、そんな時だった。
瞬間、安堵した。きっと買い物にでも寄っていたのだ、と思った。
けれども途中で足音がキッチンではなく、まっすぐ二階へ続く階段を上がってきていることに気づいてドキンと心臓が跳ねる。
そのまま足音は近づいてきて、私の部屋の前で止まった。
「円、いるの?」
ノックの後に聞こえてきた比呂くんの優しい声に、私は部屋の扉を開けた。
「よかった、ちゃんと帰ってて」
酷いことばかり言う私に、比呂くんはそれでも微笑んでくれる。
彼の心のどこに悪魔が住んでいたのか、今となっては見当もつかない。
それともこれが、償いなのか。