義兄(あに)と悪魔と私
「どうしたんだよ。泣きそうな顔して」
部活のカバンを担いだままの比呂くんからは、少し汗の匂いがした。
「……別に」
「良子さん、まだ帰ってないのか」
はぐらかしても、比呂くんにはお見通しらしい。
「もう少し待ってみよう。心配しなくても大丈夫だって」
「でも……」
「どうせ飯まだなんだろ? 今日は俺が作るよ」
何も言えないでいる私をよそに、比呂くんはキッチンに下りて、手際よく夕食の準備を始めた。
部活で疲れているのは比呂くんの方のはずなのに……これじゃあ、私は何なのか。
そうは思ったけれど、結局気力が沸かずに、リビングのソファで比呂くんの様子をただ眺めていた。
笑える。こんな私を、好きになってもらえるはずがない。