義兄(あに)と悪魔と私
電車とバスを乗り継いで、一時間ほど。
最寄り駅で電車を降りてからは徒歩で少し。
電車の中で調べた限り、近くにホテルなどはありそうもない場所で、実際に降りてみても見渡す限りの住宅街だった。
母が不倫相手と密会していた繁華街にはほど遠い。
もしかしたら、不倫相手の家があるのだろうかと、そんなことを思う。
そんな場所に娘が母に会いに行く……その奇妙さに我ながら笑った。
そうしているうちに目的の住所に到着した。
ほんの少しだけ、本当に暴力団の事務所だったりしたらどうしようと思っていた私はほっとする。
周囲に立ち並ぶ家々と同じ、普通の戸建てだ。
しかし、どうやら裏に来てしまったらしく、私は玄関を探して表へまわろうとした。
電話が鳴ったのは、その時。