義兄(あに)と悪魔と私
角を曲がって、家の正面に出た私は玄関の前に立つ。
何の変哲もないその家の表札を見た時、比呂くんがずっと嘘をついてここから私を遠ざけようとした理由が分かった気がした。
「比呂くん……着いたから切るね。また、後で」
比呂くんが声をあげるのを無視して、一方的に電話を切る。
いつのことかは分からない。
けれどきっと、比呂くんは母のことを調べるうちにここにたどり着いたんだろう。
そして、私に隠さなければならない理由があった。
それは、母も同じだ。
頑なに話そうとしなかった「北見」の家のこと。
これほど近くに住んでいながら、結婚式にも呼ばないなんて普通じゃない。
私は十六年間生きてきて初めて、母の実家の門の前に立っていた。
きっとこの先に幸福などない。
だけどそんなのは今更だ。
引き返すことなどできない。
私は震える指で、インターホンを押した。