義兄(あに)と悪魔と私
兄と妹の罪と罰
「どうぞ、上がって下さい」
そう言って玄関の扉を開けたのは、白髪混じりの髪をひとつ結びにした初老の女。
その人は私が誰なのかを訊ねることもなく、ただ中に入るように促した。
「あ、あの私は」
困惑する私を見つめる感情のない目が、ただひたすらに気味が悪い。
「あなたが来ることは聞いています。どうぞ」
しかし抑揚のない声の圧力に負けた私は、靴を脱いで彼女の指示に従う。
家の中を案内されるままについていく間、この人が誰なのかは必死に考えないようにした。
(怖い……)
気がつけば無意識に自分の身体を抱きしめていた。
本当はこんなところにいたくない。
だけど、確かめなければ……私はきっと前にも後ろにも進めない。