義兄(あに)と悪魔と私
 
その可能性は考えないようにしていた。

名前が似ているのは偶然だと。
だけど結婚していないのに、同じ姓を名乗る二人なんて。

これほど母に執着する男が、籍を入れなかった理由も、それで全部説明できる。

母が決して私に教えなかったのは、この男の頭がおかしいからじゃない。

結婚しなかったんじゃない。できなかったんだ。

……ぐるぐる、ぐらぐら、視界が歪む。吐きそうだ。

「この家にはかつて二人の兄妹とその両親が住んでいた。どこにでもある普通の家族だった……十八年前、兄と妹が禁忌を犯すまでは」

聞きたくない。聞きたくない。
知りたくなかった、こんなこと。

母とその実兄の、穢らわしい交わりの話。
 
< 162 / 228 >

この作品をシェア

pagetop