義兄(あに)と悪魔と私
男は得意気に母との馴れ初めを語った。
初めての行為は母が高校生の時。
大学生の時私が出来て、母は大学をやめざる得なかった。
両親の反対を押しきって、一人隠れるように兄との私生児を産んだ母はそれから実家には寄り付かなくなった。
家の世間体のため、仕方がなかったと。
しかしその間も、二人は密かに愛を育んで来たのだと自慢げに語る男に罪悪感や背徳感のようなものは微塵も感じられなかった。
母は始終男の話に口を挟むこともなく、魂の抜けた人形のようにただ空を見つめていた。
男の話がどこまで本当だったのかは分からない。
これは母が望んだ関係だったのか、そうではなかったのか。
母は兄との関係を続けなから、何故有坂さんと結婚したのか。
本当はどちらを愛していたのか。
だけどそんなことは、もうどうでもいい。
一つだけ確かなことがある。
私は兄妹の近親相姦の過程に産まれた、副産物だということ。