義兄(あに)と悪魔と私
家に帰る電車には乗れずに、私はホームのベンチに座り込んだ。
何本も電車を見送るうちに、次第に自分の馬鹿さ加減に泣けてくる。
(比呂くんは全部知ってたんだ……だからあんなに私を関わらせないように)
母も比呂くんも正しかった。知っていいことなんてひとつもなかった。
「円、探したよ」
瞬きと共に雫が頬を伝った時、頭上で声がした。
「さっきから何回もかけてるのに出ないから、心配したんだよ」
顔を上げると、やれやれという顔で、でもホッとしたような表情の比呂くんがいた。
私は未だ、彼の行動が理解できない。
「……いつから知ってたの」
私の問に、比呂くんは少しの間の後、静かに答えた。
「……修学旅行の前日。良子さんの不倫相手の素性を詳しく調べてもらってた探偵から聞いた」