義兄(あに)と悪魔と私
「そんなに、前から……」
「それはもういいから、早く帰ろう。今日は夕方から雨だって」
「どうして」
「だって、俺傘持ってきてないよ。急いでたから」
「そうじゃなくて!」
私は声を荒げた。
「どうしてそんなに優しくするの! また《好きな人》のため?」
「……それもあるけど、一番は俺がそうしたいからだよ」
淀みなく答える、比呂くんが腹立たしい。
「無理しなくていいんだよ? 普通の人間なら気持ち悪いに決まってる」
「そんなこと……俺は」
「私は! 私が気持ち悪い……」
ギュッと自分の身体を抱きしめて縮こまる。
そんな私を、比呂くんの優しい腕がそっと包み込んだ。
「君の生まれは、君には一切の責任がないことだ。気持ち悪いなんて思わないよ」