義兄(あに)と悪魔と私
「そんなこと言われても……私は」
私だって比呂くんが好きだ。もうずいぶん前から。
だけど、私の中で未だ割り切れない感情がある。
それは比呂くんを憎みながら、愛しく思うこと。
「ごめん。困らせるのは分かってた。だから本当は、言うつもりもなかった」
困惑する私を察したように、比呂くんは言った。
「でも、俺の気持ちを誤解することで、円が嫌な思いをするのなら……と思った。
返事はいらないよ。聞かなくても分かってるから」
自虐的に笑う比呂くんに、私はとうとう何も言えなかった。
どう言えばよかったのだ。
一生許さない、でも好きだなんて。
そんな私に比呂くんは笑顔で手を差し出した。
「ほら、帰ろう。雨が降りださないうちに」