義兄(あに)と悪魔と私
私は正直、離婚しないなんて馬鹿だと思った。
どう考えても、私と母は疫病神だろう。
だけどそのおかげで、私は何事もなかったかのように今までの生活を続けることができたのだから、何も言えない。
八月上旬、登校日のため久々に早く起きた朝、キッチンで比呂くんと顔を合わせた。
「おはよう」
私を見るなり快活に言った比呂くんは、心なしか少しやつれたように見えた。
私は小さく挨拶を返すと、焼き終わったトーストを足早にテーブルへと持っていく。
「元気そうで良かった。ずっと部屋にこもっているから、父さんも心配してたよ」
あれ以来、比呂くんとはほとんど話していなかった。
だって、気まずい。
「……そうなんだ、ごめんね。私はもう大丈夫だから心配しないで」
母と父の件が、私の中で完全に吹っ切れたかというと嘘になる。
それでも、ふと忘れている瞬間もある。
むしろ部屋にこもっている間、比呂くんのことを考えていた時間の方が長かったのではないかと思う。