義兄(あに)と悪魔と私
あんな告白の仕方はずるい……何がずるいのかは自分でもよく分からない。
それでも私は、彼の腕の中に素直に飛び込んで行くことなどできなかった。
私達は悪魔と奴隷から始まった関係。
今更恋人同士になんてなれない。上手くいきっこない、どうせ。
「円、今日学校が終わったら、一緒に良子のさんの所に行かない?」
私は思わず向かいの席に座った比呂くんの顔を見た。
固まった私に、彼はまるで屈託ない顔で、「嫌?」と首を傾げた。
「嫌とかじゃないけど……」
というより、気まずいのだ。
入院中の母とどんな顔して会えばいいのかも分からないし、何より比呂くんと二人ということが。
「じゃあ、生徒玄関で待ち合わせだな。今日は俺もバスで行くよ」
比呂くんは普段自転車通学だが、母の病院に寄るなら街の方に出るからバスの方が都合が良い。
それだけの意味だが、出来るだけ比呂くんを避けたい私にとってはまったくありがたくない話だった。