義兄(あに)と悪魔と私
 
「……え?」
「好きなんでしょ? 有坂くんのこと」
「……」

何も言えないでいる私に、麻実は笑った。

「私に遠慮してずっと黙ってたこと、そりゃあ寂しかったし、結構ムカついてた。
でも話してくれたから、もういいよ。
だから、ちゃんと自分の気持ちに素直になってね。せっかく両想いなんだからさ」
「なんで……」
「見てたら分かるよ。自分達がなんて噂されてるか本当に知らないの?」

麻実は私の自覚のなさに驚いていた。
私が「親友の彼氏を寝取ったビッチ」という噂はいつの間にか消え、今は「ふられたのに未練がましい残念王子」に変わっているとか。

どうやら、校内での私達の目撃談が相次ぎ、加えてあの終業式の廊下でのやり取りが多くの生徒の目に触れ、強烈な印象を残したようだ。
そのショックで多くの女子生徒がファンクラブから退会し、解散同然の現状となっているらしいとも。

私としてはもう、どこから笑えばいいのか分からなかった。
 
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