義兄(あに)と悪魔と私
その日の午前、私はずっと憂鬱に過ごした。
登校日の授業は午前だけで、昼になれば約束通り比呂くんと母のところへ行かなければならない。
怖いのだ、私は。
幸せになれるかなんて、誰にも分からない。
不幸になるかどうかも、誰にも分からない。
だけど、選ばなければ幸せにも不幸にもならない。
そんなこと分かっている。分かっている。
それでもまだ、比呂くんを信じることができない。
あの日、私の前に現れた悪魔が記憶の底に焼き付いて、今も笑うのだ。
それに顔はない。でも確かに笑っている。
馬鹿な女、と私を嘲笑うように。
「円? 大丈夫か?」
「え……?」
「真っ青だけど」
気がつけば、隣には心配そうに私をのぞき込む比呂くん。
そして私は、靴箱に手をかけたまま立ち尽くしていた。