義兄(あに)と悪魔と私
病院はもう目と鼻の先。交差点の横断歩道を渡るだけだというのに。
「ここまで来て、何言ってるの」
「だって、円……機嫌悪そうだし」
図星だけれど、認めればさらに鬱陶しいに違いない。
「悪くないよ、どうして?」
「じゃあ本当に体調が悪い? さっきからずーっと、眉間にシワよってる」
「……考え事してたの。ごめんね」
「嘘」
「嘘じゃないよ」
私は作り笑顔で言ったけれど、比呂くんは追求を止めなかった。
「ちゃんと俺の目を見て言って」
「……なんなの、さっきから。しつこいよ」
「良子さんの今の状態、分かってるよね? 自分の感情も自分でコントロールできないような人間、会わせられないよ」
「何それ……誰のせいだと思ってるの」
瞬間、比呂くんの表情から色が消えた。
しまったと思った。だけどもう遅い。