義兄(あに)と悪魔と私
言葉を失ってしまった比呂くんから目を背けるように、私は言った。
「分かったよ。私は帰るから、一人で行けばいいじゃん! お母さんによろしくね!」
ああ、もう。自分が嫌になる。
顔を合わせれば言い争いばかり。
やっぱり、私達は駄目だ。幸せになんて、なれるわけない。
「――円!」
帰りの方向のバス停へ向かって歩き出した私の背中に、比呂くんの声が追いかけてきたが無視した。
振り返ることなんて、できるわけなかった。
「円、止まれ!」
叫びにも似た、やけに余裕のない声。
違和感を感じた時には、もう間に合わなかった。
――音が、近い。
大きな大きな、急ブレーキの音。
目の間には、迫り来るトラック。
頭の中が真っ白になった。