義兄(あに)と悪魔と私
「まど……か?」
「そうだよ。私だよ!」
今にも消えてしまいそうな声。私は比呂くんの傷だらけの手を握りしめた。
「良かった……無事で」
「よくないよ……比呂くんが……比呂くんが……」
涙に声が詰まって、上手く言葉にならない。
そんな私を見ながら、比呂くんは微かに笑った。
「あー……駄目かもね、これは。この量は……はは」
「そんなこと……」
「俺なんかのために……泣かないで。後悔はないよ……最後に君を守れたんだ……から」
いつの間にか、周りが騒がしくなっていた。
トラックの運転手が降りてきて、何かを言っていたような気がする。
けれど、私には今目の前にいる比呂くんしか見えない。
「いやだよ……死ぬみたいなこと、言わないで」
「……ごめん……な。ずっと円には申し訳なかったと、思ってる。ずっと……恨んでて、いいから」