義兄（あに）と悪魔と私

　
二人の結婚式の日、良子さんが不倫相手の男と密会しているのを、俺は密かに知っていた。
教会の庭、トイレの窓からあんなに丸見えな場所で、馬鹿としか思えなかった。

式の後にトイレの前で青い顔でうずくまる円を見つけた時、正直同情はしなかった。
そんなそぶりは少しも見せず、優しく彼女を心配するふりをして、どんな反応を見せるのか楽しんでいた。

俺だけがこんな思いをするのは間違っている、君も苦しめばいいと。

だけど、彼女は。

すぐに立ち直って、何でもないふりをした。
それどころか、なかったことにしようとした。

後になって思えば、俺は円に仲間になって欲しかったのかもしれない。可哀想にと、慰めて欲しかったのかもしれない。

そんな情けないこと、言えるわけなかった。

結局――円は俺に全てを差し出しても、良子さんの不貞を隠そうとした。
この時の俺には、彼女が敵にしか見えなくなっていた。

だから犯した。それが彼女を一番傷つけられると思ったから。