義兄(あに)と悪魔と私
「良子さんの姿が見えないけど……知らない?」
結婚式の後、教会の庭で満開の桜をぼうっと眺めていると、背後で知った声がした。
「あ……お母さんなら御手洗いだよ」
「そっか……じゃあ、この後の食事会みんなでタクシーで行くからって、伝えといて」
「うん。分かった」
母の結婚相手の有坂さんには、私と同い年、高校二年の息子が一人いた。
それが彼、比呂(ひろ)くんだ。
まだ何度も顔を合わせている訳ではなく、兄妹になるという実感はないが、これから一緒に暮らしていけばすぐに慣れるだろう。
建物の中に引き返して行く比呂くんの後ろ姿を見送りながら、本当に幸せだと改めて思った。
新しい家族ができる――有坂さんも比呂くんも感じのいい人達だし、これからは経済的にも安定した生活を送れる。
私はまだ見ぬ未来が、幸福だと信じて疑わなかった。