義兄(あに)と悪魔と私
そして、それから
「少し前、事故で亡くなった男子高校生がいたでしょ」
真っ昼間のナースステーションに、デリカシーのない看護師の声が響く。
「あの病室の噂、知ってる? 夜になると……」
どこで誰が聞いているかも分からないのに、女という生き物は本当に噂話が好きだ。
その横を静かに通りすぎると、一人のナースが自分に気づいた。
「ああ、有坂さん!」
駆け寄ってくる彼女に、軽く会釈する。
「これから手続きですか?」
「はい。お世話になりました」
「今日はお一人なんですね……」
「父は……仕事で」
彼女の意図が違うところにあると知りながら、俺は言葉を濁した。
「ああ、そっか。妹さんは今日から学校か。高校生の夏休みは短いんですね」
「はい。では、僕はこれで……」