義兄(あに)と悪魔と私
 
迎えの一人もいないのが、何となく惨めで早く立ち去りたい気分だった。

本当は、久しぶりに円が来てくれると父さんから聞いていたのに。
もしかして、まだ体調が悪いのかと少しだけ心配になる。

事故の日から、円は目覚めぬ俺に三日三晩付き添い、俺の意識が戻るとすぐに過労で倒れてしまったらしい。
それから病室には、一度も来ていない。

意識がない間はもちろん、目覚めた直後も朦朧として思い出せない俺は、もう何日も円に会っていないようなものだった。

頭を切って派手に出血したものの、傷自体はそれほどでもなく、後遺症もない。加えて病院の目の前で事故が起こったのが不幸中の幸いだった……と主治医には言われた。

せっかく元気になったのに、円には未だ会えない。
やっぱり全部夢だったのだろうかとすら思い始めていた。
 
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