義兄(あに)と悪魔と私
退院の手続きを終えて病院を後にする。
玄関の自動ドアを抜けると、「あっ」と変な声がしたような気がした。
しかし周りを見渡すと、病院の駐車場に俺を見ている人はおらず、一瞬気のせいかと思った。
――違う。
後ろを向いて、他人のふりをしている奴がいる。
俺は石化の魔法にかけられたようにピクリとも動かない彼女にそっと近づくと、トンと肩を叩いてみた。
「何してるの、円?」
円はビクリと肩を震わせると、恐る恐るこちらを振り向く。
そして、怯えたような目で俺を見つめた。
「普通に迎えに来て欲しかったな」
瞬間、円の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。
「……ごめんな゛さい……私っ、私のせいで……ごめんな゛さい……」
しゃくりあげながら紡ぐ言葉には、こちらまで苦しくなるような悲愴感がある。
俺は気にしてなんか、ないのに。