義兄(あに)と悪魔と私
 
「事故のことはもういいよ。怒ってないし。ただ……ちゃんと前は見て歩いて欲しいけどね」
「……っ、はい……」
「そんなことより、どうしてお見舞いに来てくれなかったの? 過労で倒れたのは知ってるけど、ずっとじゃないだろ」

そう言って、円に少し意地悪な視線を向ける。
すっかり涙が止まってしまった円は、ばつが悪そうに視線を泳がせた。

「……こ、こわくて……」
「怖い? 俺が?」
「そうじゃ……ない」

円はブンブンと首を横に振る。

「比呂くんに会ったら……私、どうしたらいいのか……分からなかったの」
「それは俺も同じだよ。入院中、ずっと考えてた。円に会ったら、なんて言おうって。
言いたいことや聞きたいことはいっぱいあるんだけどな」

いざ会えたら、嬉しくて。
散々考えたかっこいい台詞とか、頭の中から吹っ飛んだ。
 
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