義兄(あに)と悪魔と私
そうじゃない、そういうことじゃない。
「落ち着いたら、一人で帰れるよな?」
返事をしない私を無視して、比呂くんは一人帰り支度を始める。
私は裸で横になったまま、それをただ眺めていた。
何も考えたくない。考えられない。
だって、これからどうしたらいいのか、分からない。
思考から逃避する私を現実に引き戻したのは、皮肉にも比呂くんの言葉だった。
「じゃあ、次は失神するなよ。つまんないから」
ケラケラと笑って、比呂くんが部屋を出ていく。
衝動的だった。
咄嗟に手元の 枕を引っ付かんで、悪魔の後ろ姿に投げつける。
しかし、枕はむなしく閉まった扉に当たって落ちた。
一人になった瞬間、込み上げてくるものをこらえきれなくなり、私は幼い子供のように声をあげて泣いた。