義兄(あに)と悪魔と私
日常という錯覚
ふと教室の窓から外を見やる。
二階から見える桜の木は、その花びらを散らせてしまってから久しく、今は若葉を繁らせるばかりだった。
五月。母と有坂さんの結婚式から一ヶ月以上が経ち、新しい生活にも慣れ始めた頃だ。
あれから、私達家族には波乱も変化もない。
母の不貞が露見することもなく、私は秘密の代償として、週に一度の比呂くんとの関係を淡々と続けていた。
慣れほど、恐ろしいものはない。
あれほど嫌だった行為も、心を殺せばいつしかルーチンワークのように感じてくる。彼も彼で、私が従順でさえあれば乱暴にはしなかった。
今では、隣の席に比呂くんが座るこの光景も、当たり前のものとして認識してしまっている。
午後の退屈な授業を過ごしていると、時々考えることがある。
何故母は、有坂さんを裏切ったのだろう、と。
もちろん――私が考えても、分かるはずなどないのだが。