義兄(あに)と悪魔と私
不意に男が母の手を掴み、自分の身体へと引き寄せる。
わずか一瞬のうちに、母の身体は男の腕の中へと収まってしまった。
男はそのまま、母の身体を抱き締める。
まるでドラマのワンシーンを見ているようで、一瞬自分がテレビの中にでも迷いこんだのかと錯覚する。
そうだったら、どんなに良かったか。
数秒の後、男は母の身体を少し離すと、その唇に口づける。
そこまでされても、母は抵抗する素振りを見せなかった。
(なんで……!?)
私はもう見ていられなくなって、その場から逃げ出した。
トイレから出て、思わず扉の前でへたり込む。