義兄(あに)と悪魔と私
「まーどーか! 起きてよ、もう」
少し呆れたような麻実の声。
私は睡魔に抗いながら、なんとかとか重い頭をあげた。
「着いたよ。早く降りよ」
麻実は私を急かす。確かに、周りに座っていた同級生達がぞろぞろとホームに降りていく。
それを見てようやく覚醒する。
(京都駅……着いたんだ)
結局、昨晩の寝不足がたたり、新幹線の旅のほぼ全てを睡眠に費やした。
移動中の記憶がない私には、ホームの駅名表だけが見知らぬ土地に来たという実感をくれた。
しかし、初めて来た京都にあまり興味はそそられなかった。
それよりもまだ、さっき見た夢が脳裏から離れない。
麻実と比呂くんが、付き合う夢。
目の前の麻実の輪郭が、夢と重なって歪む。
「円?」
改札口で思わず立ち止まった私を、麻実が振り返った。
「ごめん、大丈夫」
すぐ我に返って、何でもないように笑う。
――寝ぼけている。