義兄(あに)と悪魔と私
「せ、瀬戸くん……何、どしたの!?」
困惑する私をよそに、瀬戸くんは変わらず歩き続ける。
ようやく腕を離してくれたのは、麻実から完全に見えなくなってからだった。
「北見って、優しいんだな。意外」
「意外って……はは」
乾いた笑いが出た。ものすごく失礼なことを言われた気がする。
瀬戸くんとはただのクラスメイトで、これほどきわどい冗談を言い合えるほど仲よくはなかったはずだが。
むしろ瀬戸くんは、比呂くんと仲がよい。
「だってあの比呂に嫌われてる女って、どんなだよって思うだろ」
「瀬戸くんは……ひ……有坂くんから、その、色々聞いてるの?」
胸の奥がずんと重くなる。何か重しをのせられたかのようだ。
「あー……親同士の結婚のこと? 今同じ家に住んでるんだってな」
「そのことは……」
「比呂はおれにしか話してないと思う。別に、おれも言うつもりないから」
私の不安を察したのか、瀬戸くんは言った。
「そんなことより、比呂に何した?」