義兄(あに)と悪魔と私
瞬間、瀬戸くんはハッとしたように口をつぐんだ。
聞いたことのない話だ。有坂さんが前妻と別れた理由は、ただ離婚とだけしか聞いていない。
私と瀬戸くんの間には、気まずい沈黙が訪れる。その時だった。
「何してるの?」
比呂くんだった。
私達二人を見て、怪訝そうな表情を浮かべている。
「お前が遅いから、北見と探しに行こうとしてたんだろ?」
「……そんな風には見えないけど」
確かに、瀬戸くんが私を壁際に追い詰めているかのようなこの状況では説得力がない。
「突っかかんなよ。別に何もない。話してただけだ」
「ふぅん。待たせて悪かったな」
比呂くんは言ったが、まるで納得しているようには見えない。
瀬戸くんも瀬戸くんだ。
私からは比呂くんのことを心配しているようにしか見えなかったが、それを比呂くんに教えるつもりはないらしい。
おかげで、この場が気まずい。