義兄(あに)と悪魔と私
「比呂くんって、すごいよね。麻実のあんな顔、初めて見たよ。ああいう男の人と結婚したら、幸せになれるんだろうね」
心にもない言葉をスラスラ紡ぎながら、無意識に前方の比呂くんを睨み付けていた。
それを瀬戸くんに見られているとも知らずに。
「あーあ。私も彼氏とか欲しいかも。羨ましいな」
「……北見は嘘が下手だな」
瀬戸くんがクスッと笑みをもらす。
ぎくりとした。
「な……なんのこと?」
作り笑顔で取り繕うが、無駄であろうことは分かっていた。
「ヤキモチ?」
「はぁ!? 違うよ!」
到底受け入れがたい瀬戸くんの言葉に思わず声をあげる。
(ありえない!)
「ムキになるなよ。おれは梶川をとられたことに対する意味でいったんだけどな」
「……っ!」
見透かしたような瀬戸くんに腹が立つ。
ヤキモチ、なんて絶対に違う。