義兄(あに)と悪魔と私
数時間後、予約したホテルで家族四人の食事会。
あの後、なに食わぬ顔で戻ってきた母は、今も私の隣に座っている。
「そう言えば、来週から学校が始まるが……比呂、宿題は終わってるのか?」
会話の途中、有坂さんの一言で不意に話題が移る。
「ああ、終わってるよ」
比呂くんはサラリと答えた。
すかさず母が言う。
「あら、ちゃんとしてるのね。円(まどか)はどうなの?」
「……もう少し」
「あんたまたそんなこと言って、少しは比呂くんを見習いなさい。春休みももう終わるのよ」
「……分かってるってば。大丈夫」
私は余裕だとばかりに言い切ったが、実はまだ手をつけてすらいなかった。
(忘れてた……やばい)
内心の焦りを誤魔化すように、私は味のしない料理を食べることに没頭した。