義兄(あに)と悪魔と私
 
苦しくなる胸のうちを隠すように、私はわざと憎まれ口を叩く。

「私だってぼっちで可哀想だなって思わなければ、誰があなたとなんか」
「ごめん」

返ってきたのは、余りにも意外な言葉。

「昨日のことは悪かったって思ってる」

今まで、私を犯して謝ったことなんて一度もない比呂くんが。
だから、一体何に対して謝っているのか分からなかった。

「ついかっとなって。やり過ぎたって思ってるよ」
「やり過ぎてるのはいつものことでしょ」

はは、と比呂くんは苦笑する。

「謝らないで。おかしいよ、今更」
「そういう円も、おかしかったけどな。なんか嫉妬してるみたいなこと言うし……まさか、俺に惚れちゃった?」

比呂くんが私をうかがい見る。

「――っ、」
「なーんて、そんななわけないか」

一瞬にして口の中がカラカラに乾いた。
今私は何を言おうとしたのか。
比呂くんが茶化さなければ、何を言っていたのか。

(駄目、絶対駄目……!)
 
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