義兄(あに)と悪魔と私
口にすれば、真実になる。
今ならまだ誤魔化せる、なかったことにできる。
「そうだよ。そんなわけないじゃん。今のは聞かなかったことにするから、比呂くんも忘れて」
「……分かった」
「きっと修学旅行のせいだよ。ほら、言うじゃない? 普段と違う環境に身を置くことで――ってやつ」
「そんなのあったっけ?」
「あったよー! 多分だけど」
我ながら無理矢理な理屈だと思ったが、こうでもしなければきっと抑えきれなかった。
何故か優しい比呂くんに勘違いしてしまいそうになる。
この気持ちは、一時の気の迷いではない。
だからこそ、鍵をかけなくては。
誰にも知られてはいけない。
彼を想うのは今日だけにする。
修学旅行、このコースターが終わるまで。
だからどうか、今だけは見逃して下さい。
悪魔を好きでいることを許して下さい。