義兄(あに)と悪魔と私
それは砂のように
 
七月、夏休みまで一月を切っても、我が家は何も変わらなかった。

母と有坂さんは相変わらず仲睦まじく、比呂くんは学校でのアイドル的人気を保ちつつ、家に帰れば良い息子を演じている。
敢えて変わったと言えば、私の壊滅的だった成績が少し回復したくらいだろうか。

母は比呂くんの家庭教師のお陰だと喜んで、今ではすっかり自慢の息子。
週に一度、勉強を教えるという名目で、彼が私に何をしているのか……知らないというのは幸せなことだ。

修学旅行が終わってからも、比呂くんは以前のように変わらず私を抱く。そこに私の意思は存在しない。
私はあの日の決意通りひたすら心を殺し、それに応えた。

何も変わらない。変わったのは私だけ。
いつまでこの苦しみは続くのだろうか。
何のために?

母のため、と思考の中の声が答える。
そうだ、母のため。

そこでいつも、私の思考は止まる。
仕方がない、他に方法がないのだから。
 
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