義兄(あに)と悪魔と私
ある日の昼休み、教室では女子達が昨晩のドラマの話題で盛り上がっていた。
私と麻実はその輪から少し離れてお昼を食べていたが、その大きくて無駄に高い笑い声は嫌でも耳に届いていた。
「円は見てる? 砂の恋人」
私は驚いて、お弁当の玉子焼きを箸から落としそうになる。
麻実がそういう話題を振るのは珍しい。
そんな私の様子を見て、麻実は苦笑した。
「そんなにびっくりしなくても。あたし結構好きだよ? ドラマとか映画とか」
ようやく気が付いた。麻実はいつも、私に合わせてくれていたのだ。
「……そうなんだ。どんな話なの?」
麻実の気遣いを知って、申し訳ない気持ちになる。
「えーっとねぇ、簡単に言うと……普通のOLがある日上司に無理矢理関係を迫られるところから始まって、最初は嫌悪するんだけどそのうちその上司に惹かれ始めちゃうの。だけどその上司には妻も子供もいて……っていう」