蔵の中
蔵の中
蝋燭の灯が風に揺らぐ。

すーっと、冷たい空気が入り込む。

背に気配を感じ、ゆっくり振り返る。

閉じていたはずの人形の眼が、こちらを見つめている。

何か言いたげなほど、赤い口。

吸い寄せられるような表情に、眼が離せない。


たしか……この人形は、お婆様の形見の品だと聞いている。

青い眼をした洋装のセルロイド人形。

第1次世界大戦前、アメリカと日本の友好の証にと、アメリカから贈られてきた数千体の内の1つ。

日本からは、市松人形が贈られたらしい。

が、戦時中は敵国アメリカから贈られた青い眼の人形は、焼かれたり捨てられたり、隠されたりし、現在は僅かしか残っていないのだとも……。


戦後、69年。

半世紀余りを越え戦争のあったことが、夢でもあったかのように豊かな時代になった。

平和であることが当たり前のような生活のなかで、当時を知る語り部たちも年老いて少なくなっている。


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