蔵の中
戦時中の様々な悲劇を思い浮かべ、祈ること事態が難しくなっている。

青い眼の人形の辿った軌跡も、風化していく。

お婆様は如何様な思いで、この人形を守っていたのか──。

蔵の奥底、幾重にも厳重に布に巻かれ鍵の掛かった扉の中に納められていた。


薄明かりを照らし、対の市松人形を探し、蔵の中を歩く。



青い眼の人形が、見つめる視点の先に目を凝らす。


かつて海を渡り、遥かの自由の国へ祈りを届けた黒髪の和装姿の人形は、対の青い眼の人形をじっと、見つめるように佇んでいた。


物言わぬ動かぬ人形。

それに託した人の思いと願いを、その身に宿し向かい合う友好の架け橋。


流された幾万幾千幾億の涙と、失われた命を憂い、微かに優しく、笑みを浮かべる。


巡る時、巡る季節、巡る年。

この平和が、ずっと続きますように。

対の人形を、交互に見つめ、手を合わせる。


双方の人形の目から、微かに光るものが零れ落ちた気がした。



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