彼女の首筋にキスマーク。
私の抵抗


悔しくて唇を噛んだ。

しかし、それだけでは抑えられない。更に右手の甲を口元にあてる。

彼はそれに気付くと、いとも簡単に私の右手を捕まえる。大きな左手で私の手を掴むと、そのまま壁に貼り付けるように押さえ込んだ。


すぐ上から見下げられる。

この大きな奥二重の目を見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。

私はまるで短距離走をした後のように、息があがっている。それは目の前の人物のせいだ。

口をだらしなく開けて酸素を求めると、また唇が降ってきた。


逃げるように顔をそらすと、私の手を掴んでいる方とは反対の手で、私の顎を強制的に戻す。

身動きがとれないほど硬く固定された私は、ただただ彼からのキスを受けるばかりだった。


空いている方の左手で彼の胸を叩く。

その体を纏っているシャツに結ばれているネクタイは、今はもう緩んでいる。

彼がついさっき自分で緩めたのだ。

普段は見ることの出来ないその色気に騙されそうになるのを堪えて、私は更にその胸を叩く。



ようやく唇が解放された。

大きく酸素を取り込みながら彼を見上げる。

どうしてこんなことになったのだろう。

考えようとしても、この状況では頭が回らなかった。

ただ見上げることしか出来ない私を、彼は見下ろす。


そして満足したように、小さく微笑んだのだった。





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