彼女の首筋にキスマーク。
「神崎がイライラするの、めずらしいね。」
安物のセーターは駄目だ。
試着もしないで手に入れた格安のセーターは、実際に着てみると繊維が硬く、肌にひっかかる。
三時間もの会議の間、ずっと首もとをチクチクと刺激していたその生地にうんざりしながら廊下を歩いていると、そう声を掛けられた。
「そう見えますか?」
「うーん、イライラっていうより、もやもやかしら。」
私よりも六学年も上のこの先輩は、入社当初、私の教育係をしてくれた人で。
ゆるやかにウェーブしている髪がいつも綺麗な、バリバリのキャリアウーマンだ。
何かあったの?、と目尻を下げながら聞く彼女は、どう見ても楽しんでいるようにしか見えない。
「先輩、そのチーク綺麗ですね。」
「あっ、話そらした。……友達から貰ったのよ。ハワイのお土産。」
「日本じゃないんですね。残念。」
「そうなの。で?何があったのかしら。」
何もない、とは言えなかった。先輩のこの猫のような目を見ていると、全て見抜かれているような気がして嘘がつけないのだ。
どう切り抜けようか。
そんなことを考えている時たった。不意に先輩が声を張る。