君影草~夜香花閑話~
「そんなことか。そんなもの気にしてると、死ぬまで一緒になれないのにな」

 馬鹿にしたように言う真砂を、清五郎は、じっと見た。
 酒の杯を置くと、おもむろに姿勢を正す。

「なぁ真砂。真砂もそろそろ、本気で誰か考えろよ。戦で里の者も少なくなったし、確かに真砂を差し置いて、若い者が祝言を挙げるのは気が引けるだろう。それだけじゃない、真砂が誰かを娶ることは、皆が待ち望んでることだぜ」

「何だよ、改まって。そんなに俺に気を遣わんでもいい。俺が祝言など、誰も考えもしないだろうに」

「それはそうだ。でも、だからこそ待ち望んでいる。真砂の祝言ともなれば、皆それこそ嬉しがるだろう」

「残念ながら、そんな気はない」

 清五郎から視線を逸らし、真砂は酒を飲んだ。

「お前こそ、誰ぞ娶るべきじゃないのか」

 話の矛先を清五郎に向ける。
 清五郎は、真砂よりも三つ年上だ。

 十分真砂に代われる能力もあると思っている。
 相手には不自由しないだろう。
 だが真砂と同様、独り身だ。

「……俺はなぁ。ま、気長に待つさ」

「……?」

 誰か想う相手がいるのだろうか。
 少し訝しげな目を向けてみたが、生憎女子ではないので、そういうことには興味がない。

 真砂は早々に視線を切り、杯を口に運んだ。
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