君影草~夜香花閑話~
「で、頭領。頭領は、何が気に入らないんで?」

 穏やかに言う長老に、真砂はぎろりと目を向けた。
 が、答えない。

 いきなり突き上げてきた感情なのだ。
 何がどう、と冷静に考える間もなく、とにかく奪いに行きたくなった。
 あの、小さな女子を。

「頭領。深成を、迎えに行きましょうよ」

 捨吉が、ずいっと身を乗り出して言う。
 少し、真砂が驚いたように捨吉を見た。

 真砂が自分でもわかっていなかった心を、捨吉は気付いていたのか。
 清五郎は、じっと真砂を見ていたが、ややあってから、おもむろに口を開いた。

「正直、真砂が本気であの娘っ子を、そこまで想っているとは思わなかったが。だが、真砂次第だぜ。真砂があの娘っ子を欲しいと思うのなら、協力する」

「お前ら……」

 ちょっと気圧されたように言う真砂に笑いかけ、清五郎はもう一度、文に目を落とした。

「婚儀自体はまだ先のようだが、近く宴を催すようだな。観月の宴か。夜だし、宴だと警備も甘くなる。打ってつけだ」

「宴の夜に忍び込もうというのか?」

 清五郎から文を取り、真砂が言う。
 確かに矢次郎の情報では、九度山の屋敷にて、於市のための観月の宴が開かれる、とある。
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