君影草~夜香花閑話~
「頭領をお一人でなど、行かせられません! ご自分でも言ったじゃないですか、あそこはただの屋敷じゃないって! 俺を連れて行ってくれるんじゃなかったんですかっ?」

 捨吉が食い下がる。

「お前は実際にあの辺りを探ってきたからな。連れては行くが、途中までだ。この辺までか」

 とんとん、と床に広げた紙を指す。
 九度山からは、かなり遠い、一つの山だ。

「嫌ですよっ! 皆の言う通り、頭領のため、深成のためですもん! ひいては党の未来にも関わることですっ!!」

 この党は、特に血筋で頭を決めていないので、真砂の子供が次代の頭領、となるとは限らないのだが、元々戦で数が少なくなったため、子を残すことは必要だ。
 そう考えると、捨吉の言うことも、的外れではない。

 それ以上に、この真砂がここまで想う深成を、どうしても奪いたいという気負いもあるのだろう。
 強く真砂に迫る。
 だが真砂は、捨吉に厳しい目を向けた。

「駄目だ」

 強い視線に気圧され、捨吉は黙った。
 皆も、しん、と静まる。
 真砂は帯に挟んだ懐剣の柄を握った。

「試されているんだ。元々大名の姫君を奪おうなんて奴は、それなりの覚悟がいる。俺に、それだけの心と力があるか」
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