君影草~夜香花閑話~
「真田が、ですか?」

 長老が問う。
 真砂は首を傾げた。

「あるいは矢次郎が、俺の状態を知るために流したか。怪我をしてからは、俺自身が前線に出ることは、あまりなかったからな。指令もどの程度のものを受けるか見極めるためにも、俺の状態を知っておきたいだろう」

 情報収集能力に優れた矢次郎は、里にいないでも、里で起こったことは把握している。
 あの後何度か指令時に矢次郎には会っているが、矢次郎の前で戦闘はない。

 真砂の状態を見ただけで、それなりに腕のほどを見極めることは出来るが、細かいところまでは、さすがにわからない。
 党の頭の力量を正確に測らないと、今後の指令にも影響が出るのだ。

 里の壊滅の原因も、真砂の腕の状況も知っている矢次郎は、戦の原因となった真田の姫君が、ずっと真砂とあったことも知っている。
 人を見る目に長けた矢次郎だ。
 真砂の心の変化にも気付いているだろう。

 だからこそ、今回の情報を真砂に流したのだ。
 真砂にはそこまでわからないが、長老や清五郎は気付いている。

「しかし……。やっぱりそんな危険なところに、頭領一人で行かせるのは承服しかねるぜ」

 清五郎が言う。
 真砂が渋い顔をした。
 いくら皆が止めても、ここだけは頑として譲らない気だ。

「女一人攫いに行くのに、そんなぞろぞろ配下を連れて行けるかよ」

 憮然と言う。
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