君影草~夜香花閑話~
---可愛らしい子だったな。里の子でもないのに頭領が傍に置いてたってことは、あの子は頭領が拾ってきたのかな---

 主立った男たちは、戦の起こる前の話し合いに出ていたこともあり、深成(みなり)の正体を知っているが、娘や年少の者は、詳しいことはわからない。
 故に、あきも深成がこの里で姿を見せないのは、戦で死んでしまったからだろうと思っていた。

 可哀想に、と思いつつ、芋の入った籠を抱え上げたあきは、考えに耽っていたお蔭で、籠の一部が壊れているに気付かなかった。
 持ち上げたところで、ぶち、と音がし、持ち手が取れる。

「あっ」

 気付いたときには、ごろごろと洗ったばかりの芋が地面に落ちていく。
 慌ててあきは、壊れた籠を置いて、落ちた芋を集めた。

「ああ、もぅ。……どうしよう、籠がないと不便だわ」

 母屋にいる人数だけでも、食事の用意は大変なのだ。
 両手で運べる量ではない。

 ぶつぶつ言いながら、転がった芋を集めていると、ざり、と音がして、一つの影が落ちた。

「あれれ。籠が壊れちゃったの? 大変だ」

 陽気な声が落ち、あきが顔を上げると、そこに捨吉が立っていた。
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