君影草~夜香花閑話~
 厄介な、と思ったが、この警護の人数は、そのままこの辺りに深成がいることの証明にもなる。

 真砂は腰に差していた懐剣を引き抜いた。
 最後に深成が真砂に託した懐剣だ。

 あれから、片手でも扱える小太刀を使うようになった。
 この懐剣は、常に腰にあったが、実際の戦闘では使わないよう大事にしてきたのだ。

 意識して大事にしていたわけではないが、特別だという意識はあった。
 それが何故なのか、ようやくわかった気がする。

 真砂目がけて、数人の兵士が刀を翳して向かってきた。
 真砂はそのような者には、あまり興味を示さず、ただ忍びの気配を嗅ぎ取ることに集中した。

 単なる兵士など、敵ではない。
 足元の石をいくつか拾うと、向かってくる兵士たちの額目がけて投げつける。

 ただの石であっても、真砂にかかれば凶器になる。
 命を奪うほどのものではないが、全員が全員、一撃で確実に眉間に石礫を食らい、その場に昏倒した。

 一撃で確実に倒していく真砂に、兵たちは僅かに腰が引けた。
 その隙に、真砂は庭を抜けて屋敷に近づく。

 が、少し訝しくも思った。
 あの深成が、この騒ぎに気付かないわけはない。
 詰めている兵たちが、いくら合戦のように声を張り上げないとはいえ、全く物音がしていないわけではないのだ。
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