君影草~夜香花閑話~
☆おまけ☆
 うららかな午後。
 深成は縫物をしながら、傍で遊ぶ娘を見ていた。
 ようやく二つになった娘は、部屋の中で毬を追いかけ回している。

「ほら。これぐらいの礫は打ち落とせないと、葉っぱなんぞ斬れんぞ」

 庭で、息子に向かって真砂が小さな礫を投げる。
 八つの息子は、やっ! という掛け声と共に、持っていた木刀を振り下ろした。
 が、木刀は礫に触れることなく、空を斬る。

「父様~。礫、小さすぎます。しかも父様、投げるの速いですよ。もうちょっとゆっくり投げてください」

「十分ゆっくり投げてるだろ。敵から飛来する礫は、こんなもんじゃないぞ」

 そう言って、真砂は再び礫を放った。
 今度は本気だ。

 手から離れた礫は、見えないほどの速さで、息子の頬すれすれを掠めた。
 ぽかん、と息子が固まる。

「同時に落ちてくる葉を貫き通すほどの鋭さも必要だ。葉は僅かな風で揺れるからな。周りの空気を一切動かさず、一気に刀を出さにゃならん」

「そんなこと、出来るんですか?」

 きらきらとした目を向ける息子に、真砂は少し動いて、桜の大木に近づいた。
 とん、と木を蹴ると、はらはらと葉っぱが落ちてくる。

 ちら、と真砂の目が動いた、と見た瞬間、閃光が走る。
 息子が、え、と思ったときには、いつの間に抜いたのか、真砂の右手に握られた小太刀に、葉が一枚突き刺さっていた。

「……凄い!」

 目を輝かせて、息子が駆け寄ってくる。
 小太刀から葉を取り、しげしげと見る息子を促し、真砂は部屋に入った。

「父様、この技、教えてください!」

 縁側に飛び乗って言う息子に、娘が駆け寄る。
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