君影草~夜香花閑話~
「まぁ、まずは礫を木刀で突けるようになってからだな」

 腰に差していた小太刀を取り、真砂は囲炉裏の前に座った。
 深成が冷えた水を渡す。
 そして、棚に置いていた壺の蓋を開けた。

「ほら。お前たちも、お菓子を食べて休みなさい」

 壺から摘まみ出したのは、小さな金平糖。
 息子も娘も、目を輝かせた。

「この前、あんちゃんが町に買い出しに行ったときに、買ってきてくれたの。珍しいでしょ?」

 にこにこと言うなり、えい、と深成は息子に向かって金平糖を弾いた。
 慌てて息子は、宙で金平糖を受け止める。

「うん、よしよし。こんな小さい金平糖を受けられるんだから、礫だって受けられるんじゃないの?」

「受けるぐらいなら出来るだろうさ」

「でも投げたんじゃなくて、弾いたんだよ? 投げるよりも速いでしょ?」

「食い物だからってのもあるかもな。お前の子だし」

「真砂の子でもあるでしょっ!」

 ぶーぶーと言い合う両親をきょろきょろと見ていた息子は、そろ、と手を伸ばして、壺の中から金平糖を一掴み取り出した。

「こらっ」

 すかさず深成が、壺を取り上げる。
 それをさらに、ひょい、と真砂が取り上げた。
 そしてそのまま手を伸ばして、壺を深成の後ろの棚に置く。

「いいじゃないか。それ、姫にも分けてやれよ」

「はぁい」

 手を開いて金平糖を一つ口に放り込み、息子は妹の口にも一つ入れる。
 そして、妹の手を取った。

「しばらく外で遊んで来い」

 一連のやり取りで身体は深成のほうに寄っていた真砂が、そのまま肩越しに、息子に言った。

「わかってますよ」

 息子は妹の手を引いて、回廊に出て行った。
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