君影草~夜香花閑話~
「そ、そんなことは……ありませんけど……」

 もじもじと言う。
 そんなあきをじっと見ていた真砂は、ちらりと横に控える捨吉に視線を転じた。

「お前はこいつを抱いたことはあるか?」

 いきなり言われ、捨吉は、ちょっとだけ視線を彷徨わせた。
 そしてきまり悪げに、小さく首を振る。

「ふ~む……。どうするかな」

 顎を撫でつつ、真砂が呟く。
 あきが、ちらりと真砂を見た。

「あの。女技が必要なのですか?」

「ああ。暗殺ではなく、身辺を探るだけだからな。的(まと)が殿様ではなく重臣だから、屋敷も大したことはない。ただモノが密書なだけに、簡単には見つからんだろう。屋敷に入り込むだけでなく、相当相手に気に入られる必要がある。いつも閨に引き入れておかれるほどが望ましい」

 確かに密書を探すには、常に屋敷内にいられる状態を作ったほうがいい。
 忍び入るだけでは限度があるのだ。
 そうそう簡単に見つかるとも思えない。
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